奈緒子と主題歌
「1」〜「3」までの鬼束ちひろさんの主題歌は、まさに奈緒子の心情と言える。しかも、その時々の心情の変化も感じられるのである。
まず、『月光』の、
「この腐敗した世界に堕とされた」
「こんなもののために生まれたんじゃない」
は、まさに、“その存在を否定し続けてきたはずの霊能力者が、実は自分自身であった”という事実に苦しむ奈緒子の姿であろう。
さらに、2番の
「一体何を信じれば?」
「どこにも居場所なんて無い」
も、9話ラストで“父親を殺したのは自分だった”という奈緒子の絶望を歌ったものであり、
「貴方なら救い出して 私を静寂から」
は、島で上田に出会った時の奈緒子の本心ではなかろうか?次に『流星群』であるが、
「心を与えて 貴方の手作りでいい」
は、奈緒子の上田に対する気持ちの表れであろう。上田に対し、不器用でもいいから心を通じ合いたいという、奈緒子の願いや希
望のようなものであり、
「これ以上望むものなど 無い位に繋いで」
も、誰かに繋ぎ止めてもらわないと何処かへと行ってしまいそうな、奈緒子の本当の脆さを表している。そして、サビの
「こんなにも醜い私を こんなにも証明するだけ」
とは、上田に対し弱さを見せられない自身の意地を痛感している奈緒子に他ならない。
そして、 『月光』の、 「倒れそうになるのを この鎖が許さない」
『流星群』の、 「絡み付いた 生温いだけの蔦(つた)を 幻想だと伝えて」
には共通するものがある。それは、「自分を拘束する何か」である。つまり、「鎖」=「蔦」=“霊能力者であるという事実”なのである。
ここまでくると、TRICKの為に作られたのではと、思いたくなるのはやむを得ないであろう。
『月光』でどん底の絶望だった奈緒子が、上田に出会い、わずかな光が見え始めた。これこそが『流星群』である。
そして、『私とワルツを』の、
「分かり合えてるかどうかの答えは、多分どこにも無い」
は、互いに素直になれない奈緒子と上田、そのままである。そして、サビの
「優しいものは とても恐いから 泣いてしまう 貴方は優しいから
誰にも傷がつかないようにと ひとりでなんて踊らないで どうか私とワルツを」
これは奈緒子の、上田へのメッセージとしか言いようがない。何だかんだ言っても、上田は優しいのである。しかし、『私とワルツを』
だけは、他の2曲と大きく異なっている点がある。それは、“上田の、奈緒子に対するメッセージ”にもなっているという点である。
「誰にも傷がつかないようにと ひとりでなんて踊らないで」
というのは、いつも自分1人で霊能力の重みを背負い込んでいる、奈緒子の事である。意地っ張りな奈緒子は、誰かに助けを求めた
りはしない。そんな奈緒子に対し、「1人で全てを背負い込まないで、自分を頼りにして欲しい」、上田はそう思っているのではないだろう
か?
だからこそ、照れながらもあのような言葉を発したのではなかろうか? そう、「ジュヴゼーム」と。